22.3. 無線ネットワーク

原作: Eric Anderson.

22.3.1. はじめに

常にネットワークケーブルをつないでいるという面倒なことをせずに、 コンピュータを使用できることは、とても有用でしょう。 FreeBSD は無線のクライアントとして、 さらに “アクセスポイント” としても使えます。

22.3.2. 無線の動作モード

802.11 無線デバイスの設定には、BSS と IBSS の二つの方法があります。

22.3.2.1. BSS モード

BSS モードは一般的に使われているモードです。 BSS モードはインフラストラクチャモードとも呼ばれています。 このモードでは、 多くの無線アクセスポイントが 1 つの有線ネットワークに接続されます。 それぞれのワイヤレスネットワークは固有の名称を持っています。 その名称はネットワークの SSID と呼ばれます。

無線クライアントはこれらの無線アクセスポイントに接続します。 IEEE 802.11 標準は無線ネットワークが接続するのに使用するプロトコルを規定しています。 SSID が設定されているときは、 無線クライアントを特定のネットワークに結びつけることができます。 SSID を明示的に指定しないことにより、 無線クライアントを任意のネットワークに接続することもできます。

22.3.2.2. IBSS モード

アドホックモードとも呼ばれる IBSS モードは、 一対一通信のために設計された通信方式です。 実際には二種類のアドホックモードがあります。 一つは IBSS モードで、アドホックモード、または IEEE アドホックモードとも呼ばれます。 このモードは IEEE 802.11 標準に規定されています。 もう一つはデモアドホックモードもしくは Lucent アドホックモード (そして時々、紛らわしいことに、アドホックモード) と呼ばれるモードです。 このモードは古く、802.11 が標準化する以前のアドホックモードで、 これは古い設備でのみ使用されるべきでしょう。 ここでは、どちらのアドホックモードについてもこれ以上言及しません。

22.3.3. インフラストラクチャーモード

22.3.3.1. アクセスポイント

アクセスポイントは一つ以上の無線クライアントが、 そのデバイスをセントラルハブとして利用できるようにする無線ネットワークデバイスです。 アクセスポイントを使用している間、 すべてのクライアントはアクセスポイントを介して通信します。 家屋や職場、または公園などの空間を無線ネットワークで完全にカバーするために、 複数のアクセスポイントがよく使われます。

アクセスポイントは一般的に複数のネットワーク接続 (無線カードと、 その他のネットワークに接続するための一つ以上の有線イーサネットアダプタ) を持っています。

アクセスポイントは、出来合いのものを購入することもできますし、 FreeBSD と対応している無線カードを組み合わせて、 自分で構築することもできます。 いくつものメーカが、 さまざまな機能をもった無線アクセスポイントおよび無線カードを製造しています。

22.3.3.2. FreeBSD のアクセスポイントの構築

22.3.3.2.1. 要件

FreeBSD で無線アクセスポイントを設定するためには、 互換性のある無線カードが必要です。 現状では Prism チップセットのカードのみに対応しています。 また FreeBSD に対応している有線ネットワークカードも必要になるでしょう (これを見つけるのは難しくないでしょう。 FreeBSD は多くの異なるデバイスに対応しているからです) 。 この手引きでは、 無線デバイスと有線ネットワークカードに接続しているネットワーク間のトラフィックを bridge(4) したいと仮定します。

FreeBSD がアクセスポイントを実装するのに使用する hostap 機能はファームウェアの特定のバージョンで一番よく性能を発揮します。 Prism 2 カードは、 1.3.4 以降のバージョンのファームウェアで使用すべきです。 Prism 2.5 および Prism 3 カードでは、バージョン 1.4.9 のバージョンのファームウェアで使用すべきです。 それより古いバージョンのファームウェアは、 正常に動くかもしれませんし、動かないかもしれません。 現時点では、カードのファームウェアを更新する唯一の方法は、 カードの製造元から入手できる Windows® 用ファームウェアアップデートユーティリティを使うものです。

22.3.3.2.2. 設定

はじめにシステムが無線カードを認識していることを確認してください。

# ifconfig -a
wi0: flags=8843<UP,BROADCAST,RUNNING,SIMPLEX,MULTICAST> mtu 1500
        inet6 fe80::202:2dff:fe2d:c938%wi0 prefixlen 64 scopeid 0x7
        inet 0.0.0.0 netmask 0xff000000 broadcast 255.255.255.255
        ether 00:09:2d:2d:c9:50
        media: IEEE 802.11 Wireless Ethernet autoselect (DS/2Mbps)
        status: no carrier
        ssid ""
        stationname "FreeBSD Wireless node"
        channel 10 authmode OPEN powersavemode OFF powersavesleep 100
        wepmode OFF weptxkey 1

細かいことは気にせず、 無線カードがインストールされていることを示す何かが表示されていることを確かめてください。 PC カードを使用していて、無線インタフェースを認識できない場合、 詳しい情報を得るために pccardc(8)pccardd(8) のマニュアルページを調べてみてください。

次に、アクセスポイント用に FreeBSD のブリッジ機能を担う部分を有効にするために、 モジュールを読み込む必要があるでしょう。 bridge(4) モジュールを読み込むには、 次のコマンドをそのまま実行します。

# kldload bridge

モジュールを読み込む時には、何もエラーはでないはずです。 もしもエラーがでたら、カーネルに bridge(4) のコードを入れてコンパイルする必要があるかもしれません。 ハンドブックのブリッジの節が、 この課題を成し遂げる手助けをになるかもしれません。

ブリッジ部分が準備できたので、 どのインタフェース間をブリッジするのかを FreeBSD カーネルに指定する必要があります。 これは、sysctl(8) を使って行います。

# sysctl net.link.ether.bridge=1
# sysctl net.link.ether.bridge_cfg="wi0,xl0"
# sysctl net.inet.ip.forwarding=1

FreeBSD�5.2-RELEASE 以降では、次のように指定しなければなりません。

# sysctl net.link.ether.bridge.enable=1
# sysctl net.link.ether.bridge.config="wi0,xl0"
# sysctl net.inet.ip.forwarding=1

さて、無線カードを設定するときです。

次のコマンドはカードをアクセスポイントとして設定します。


# ifconfig wi0 ssid my_net channel 11 media DS/11Mbps mediaopt hostap up stationname "FreeBSD AP"

この ifconfig(8) コマンド行は wi0 インタフェースを up 状態にし、SSID を my_net に設定し、 ステーション名を FreeBSD AP に設定します。 media DS/11Mbps オプションはカードを 11Mbps モードに設定し、また mediaopt を実際に有効にするのに必要です。 mediaopt hostap オプションはインタフェースをアクセスポイントモードにします。 channel 11 オプションは使用するチャネルを 802.11b に設定します。 各規制地域 (regulatory domain) で有効なチャネル番号は wicontrol(8) マニュアルに載っています。

さて、 これで完全に機能するアクセスポイントが立ち上がり、動作しています。 より詳しい情報については、wicontrol(8), ifconfig(8) および wi(4) のマニュアルを読むとよいでしょう。

また、下記の暗号化に関する節を読むこともおすすめします。

22.3.3.2.3. ステータス情報

一度アクセスポイントが設定されて稼働すると、 管理者はアクセスポイントを利用しているクライアントを見たいと思うでしょう。 いつでも管理者は以下のコマンドを実行できます。

# wicontrol -l
1 station:
00:09:b7:7b:9d:16  asid=04c0, flags=3<ASSOC,AUTH>, caps=1<ESS>, rates=f<1M,2M,5.5M,11M>, sig=38/15

これは一つの局が、 表示されているパラメータで接続していることを示します。 表示された信号は、 相対的な強さを表示しているだけのものとして扱われるべきです。 dBm やその他の単位への変換結果は、 異なるファームウェアバージョン間で異なります。

22.3.3.3. クライアント

無線クライアントはアクセスポイント、 または他のクライアントに直接アクセスするシステムです。

典型的には、 無線クライアントが有しているネットワークデバイスは、 無線ネットワークカード 1 枚だけです。

無線クライアントを設定するにはいくつか方法があります。 それぞれは異なる無線モードに依存していますが、 一般的には BSS (アクセスポイントを必要とするインフラストラクチャーモード) か、 IBSS (アドホック、またはピアツーピアモード) のどちらかです。 ここでは、アクセスポイントと通信をするのに、 両者のうちで最も広まっている BSS モードを使用します。

22.3.3.3.1. 要件

FreeBSD を無線クライアントとして設定するのに、 本当に必要なものはたった 1 つだけです。 FreeBSD が対応している無線カードが必要です。

22.3.3.3.2. 無線 FreeBSD クライアントの設定

設定をはじめる前に、 あなたが接続しようとする無線ネットワークについていくつか知っておかなければなりません。 この例では、my_net という名前で暗号化は無効になっているネットワークに接続しようとしています。

Note: この例では暗号化を行っていないのですが、 これは危険な状況です。次の節で、暗号化を有効にする方法と、 なぜそれが重要で、 暗号技術によっては完全にはあなたを保護することができないのはなぜか、 ということを学ぶでしょう。

カードが FreeBSD に認識されていることを確認してください。

# ifconfig -a
wi0: flags=8843<UP,BROADCAST,RUNNING,SIMPLEX,MULTICAST> mtu 1500
        inet6 fe80::202:2dff:fe2d:c938%wi0 prefixlen 64 scopeid 0x7
        inet 0.0.0.0 netmask 0xff000000 broadcast 255.255.255.255
        ether 00:09:2d:2d:c9:50
        media: IEEE 802.11 Wireless Ethernet autoselect (DS/2Mbps)
        status: no carrier
        ssid ""
        stationname "FreeBSD Wireless node"
        channel 10 authmode OPEN powersavemode OFF powersavesleep 100
        wepmode OFF weptxkey 1

それでは、このカードをネットワークに合わせて設定しましょう。

# ifconfig wi0 inet 192.168.0.20 netmask 255.255.255.0 ssid my_net

192.168.0.20255.255.255.0 を有線ネットワークで有効な IP アドレスとネットマスクに置き換えてください。 アクセスポイントは無線ネットワークと有線ネットワークの間でデータをブリッジしているため、 ネットワーク上の他のデバイスには、このデバイスが、他と同様に、 有線ネットワーク上にあるかのように見えることに注意してください。

これを終えると、 あなたは標準的な有線接続を使用しているかのように、 有線ネットワーク上のホストに ping を送ることができるでしょう。

無線接続に関する問題がある場合は、 アクセスポイントに接続されていることを確認してください。

# ifconfig wi0

いくらか情報が表示されるはずです。 その中に以下の表示があるはずです。

status: associated

もしこのように接続されていると表示されなければ、 アクセスポイントの範囲外かもしれないし、 暗号化が有効になっていないのかもしれないし、 または設定の問題を抱えているのかもしれません。

22.3.3.4. 暗号化

無線ネットワークを暗号化することが重要なのは、 十分保護された領域にネットワークを留める能力がもはやないからです。 無線データはその周辺全体にわたって放送されるので、 それを読みたいと思う人はだれでも読むことができます。 そこで暗号化が役に立ちます。 電波に載せて送られるデータを暗号化することによって、 興味を抱いた者が空中からデータを取得することをずっと難しくします。

クライアントとアクセスポイント間のデータを暗号化するもっとも一般的な方法には、 WEP と ipsec(4) の二種類があります。

22.3.3.4.1. WEP

WEP は Wired Equivalency Protocol (訳注: 直訳すると、有線等価プロトコル) の略語です。WEP は無線ネットワークを有線ネットワークと同程度に安全で確実なものにしようとする試みです。 残念ながら、これはすでに破られており、 破るのはそれほど苦労しません。 これは、機密データを暗号化するという場合に、 これに頼るものではないということも意味します。

なにも無いよりはましなので、 次のコマンドを使って、あなたの新しい FreeBSD アクセスポイント上で WEP を有効にしてください。

# ifconfig wi0 inet up ssid my_net wepmode on wepkey 0x1234567890 media DS/11Mbps mediaopt hostap

クライアントについては次のコマンドで WEP を有効にできます。

# ifconfig wi0 inet 192.168.0.20 netmask 255.255.255.0 ssid my_net wepmode on wepkey 0x1234567890

0x1234567890 をより特異なキーに変更すべきであることに注意してください。

22.3.3.4.2. IPsec

ipsec(4) はネットワーク上で交わされるデータを暗号化するための、 はるかに頑健で強力なツールです。 これはネットワーク上の無線データを暗号化する明らかに好ましい方法です。 ハンドブック内の IPsec 節で ipsec(4) セキュリティ、 およびその実装方法の詳細を読むことができます。

22.3.3.5. ツール

無線ネットワークをデバッグしたり設定するのに使うツールがわずかばかりあります。 ここでその一部と、それらが何をしているか説明します。

22.3.3.5.1. bsd-airtools パッケージ

bsd-airtools パッケージは、 WEP キークラッキング、 アクセスポイント検知などの無線通信を監査するツールを含む完備されたツール集です。

bsd-airtools ユーティリティは net/bsd-airtools port からインストールできます。 ports のインストールに関する情報はハンドブックの 第5章 を参照してください。

dstumbler プログラムは、 アクセスポイントの発見および S/N 比のグラフ化をできるようにするパッケージツールです。 アクセスポイントを立ち上げて動かすのに苦労しているなら、 dstumbler はうまく行く手助けになるかもしれません。

無線ネットワークの安全性をテストするのに、 “dweputils” (dwepcrack, dwepdump および dwepkeygen) を使用することで、 WEP があなたの無線安全性への要求に対する正しい解決策かどうか判断するのを助けられるかもしれません。

22.3.3.5.2. wicontrol, ancontrol および raycontrol ユーティリティ

これらは、無線ネットワーク上で無線カードがどのように動作するかを制御するツールです。 上記の例では、無線カードが wi0 インタフェースであるので、wicontrol(8) を使用することに決めました。 もし Cisco の無線デバイスを持っている場合は、それは an0 として動作するでしょうから、 ancontrol(8) を使うことになるでしょう。

22.3.3.5.3. ifconfig コマンド

ifconfig(8)wicontrol(8) と同じオプションの多くを処理できますが、 いくつかのオプションを欠いています。 コマンドライン引数とオプションについて ifconfig(8) を参照してください。

22.3.3.6. 対応しているカード

22.3.3.6.1. アクセスポイント

現在のところ (アクセスポイントとして) BSS モードに対応した唯一のカードは Prism 2, 2.5 または 3 チップセットを利用したデバイスです。 wi(4) に完全な一覧があります。

22.3.3.6.2. クライアント

現在、FreeBSD では、ほとんどすべての 802.11b 無線カードに対応しています。 Prism, Spectrum24, Hermes, Aironet または Raylink のチップセットを利用したほとんどのカードは、 (アドホック、ピアツーピア、そして BSS の) IBSS モードで無線ネットワークカードとして動作するでしょう。

本文書、および他の文書は ftp://ftp.FreeBSD.org/pub/FreeBSD/doc/ からダウンロードできます。

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